ポレンタ天国

たぶん読んだ本・見た映画の記録が中心になります

2021年2月~2022年12月に読んだ本・見た映画

この間、映画は『レイジング・ファイア』『ただ悪より救いたまえ』『恋する惑星』『ブエノスアイレス』『花様年華』『RRR』『犯罪都市 THE ROUNDUP』を見ました。




東畑開人 (2019). 『居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書』医学書院.
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ケアとセラピーの関係・葛藤はいろいろな仕事で見られるだろうと思います。たとえば、セラピーするつもりで塾講師のアルバイトに申し込んでも、個別指導塾で求められているのはケアが多いのでは? 効率性の罠みたいなことも、まあ、「何かしなくちゃ」と焦るときの「何か」はおうおうにして、「即効性」が暗に期待されている場合が多いですよね。



信田さよ子 (2014). 『カウンセラーは何を見ているか』医学書院.
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聞く姿勢がなっちゃいない自覚があったので……。その目的なら前半だけでいいし、そこを抜粋した新書でいいのかもしれません。作品として見れば、後半も必要ですね。自己肯定感に対する著者の説明は、本書ではさらりと出てくるだけです。こちらに詳しく書いてありました。「もっと体験的な表現を取り戻しましょう」

gendai.media



中井久夫 (2007). 『こんなとき私はどうしてきたか』医学書院.
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著者の実践例が盛りだくさんで、辞書みたいに使いたい本でした。医療従事者でないし、医療経営の予定もない人であっても、「難しい依頼者」に対応する可能性があるなら、読んでおけば助かると思います。たんたんと述べられていますが、これまで相当数のクライアントが天に召されているようです。考えてみたら当然なんですが、100%とはいきませんよね……。



『アクティブ・ラーニングでつくる算数の授業』
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今の算数の授業は、こんなモデルが提示されているんですね。これは楽しく勉強できそう。SNSではとかく伝統的な授業が賛美されがちですし、私自身もアクティブ・ラーニングの必要性や効果について懐疑的でした。ですが、考えをあらためました。 ペア・ワークやグループ・ワークといった手段が目的化した授業が「アクティブ・ラーニング型授業」として否定されています。まあ、実際にそうした授業がよく見られるのでしょうね。目的は自律学習にあるはずなんですが。
🙅アクティブ・ラーニング型授業
🙆問題解決型授業
型通りの授業は形骸化するよ、生徒も楽しくないよ、ということでしょうか。



鈴木寿一・門田修平(編著) (2018).『英語リスニング指導ハンドブック』大修館書店.
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英語教育の本は質量価格すべてが圧倒的ですね。教科教育法が対照実験を踏まえている点がいいなあと思いました。やはり研究動向はきちんと追いかけるようにしなくては。

「筆者の勤務校の大学生に、中学高校時代に受けた文法指導を尋ねると、そのような指導(引用者註:フォーカス・オン・フォームないしタスク・ベースの文法指導)を受けた学生はほとんどいない」
「また、筆者が過去約20年間に、中学や高校現場を訪問して参観した英語授業のうち文法の授業のほとんどが、例文による文法規則の説明、練習問題とその答え合わせと解説中心の授業で、上記の書物で紹介されているような文法指導を観たのは2、3回である」(92頁)ここでもどうやら理念と実態の乖離が。

「リスニング力は他の3つの技能の基礎となるものです。…いずれの研究も、リスニングを十分に行うことで、他の技能への転移の程度が大きくなることを実証していることは、十分なインプットなしに、アウトプットを急ぐ最近の風潮に対する警鐘を打ち鳴らすものです」(369頁)親方の言う「聞けない・話せないのに読める・書けるということはありえない」ですね。



牲川波都季, 有田佳代子, 庵功雄, & 寺沢拓敬. (2019). 日本語教育はどこへ向かうのか. くろしお出版.
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日本語教師業を俯瞰して、言語政策と結びつける本。そのお仕事をされている方々にとっては、日々の仕事を改めて位置づけ、文脈化する起点になろうかと思います。

有田佳代子の第1章は結論にやや疑問が残ります。「若者が日本語教育業界にならないのは、雇用条件や労働環境の不安定さが原因だ」とする問題提起の結論は、「教師が小さな集まりに気軽に参加して対話を重ねる」ではなかろうと思うのですが……。有田佳代子の第1章は結論にやや疑問が残ります。「若者が日本語教育業界にならないのは、雇用条件や労働環境の不安定さが原因だ」とする問題提起の結論は、「教師が小さな集まりに気軽に参加して対話を重ねる」ではなかろうと思うのですが……。部外者のおか目八目ですが、士師業のような職能団体をつくって、雇用者に対する待遇改善交渉、立法府や行政府に対するロビイング、マスコミや有権者に対するアピール等が必要なのではないかと。

庵功雄の第2章は、彼の近年の仕事(日本語教育の学習内容の見直し、やさしい日本語)の背景解説といった風でした。つまり、テニュアポスト、雇用を守るための提言です。表現活動中心の教育に変えれば、コンピューターに代替されないだろう、と。庵功雄の第2章は、彼の近年の仕事(日本語教育の学習内容の見直し、やさしい日本語)の背景解説といった風でした。つまり、テニュアポスト、雇用を守るための提言です。表現活動中心の教育に変えれば、コンピューターに代替されないだろう、と。

寺沢拓敬の第3章は、変な言い方ですが、寺沢先生の一人勝ちという印象を受けました。別に勝負があったわけではないのですが……。高等教育全体が抱える問題ですけど、縮小段階に入りはじめた社会で、財源の話抜きに進めていくのは難しいでしょう。「このために増税しましょう」と言いきれるかどうか。

牲川波都季のまとめにある通り、行政府の方針が目まぐるしく変わり、現場はその影響をもろに受けることの繰り返しであったようです。現に、本書の執筆やディスカッションがなされた2018年時点では、雇用環境は完全に「売り手市場」でしたが、年が明けると一気に冷え込みました。「学会全体が、日本語教育っていうのは、ことば自体を考えるよりも他のことをやるところだというふうに考えているという感じなんですね」(庵, 85頁)こういう、私にも奇妙に思える現象は教える場所でよくありますよね。まずは勉強・学習であるなのに、「まず」が尽くされない。

「たとえば日本語学校が大幅に減ったとして、それ自体が問題なのかどうか。職は減るけれども、そもそもそういう無茶なところに勤めないと回らないようなことがそもそもおかしいということではないのか」(庵, 140頁)



門田修平・野呂忠司・氏木道人(編著) (2010).『英語リーディング指導ハンドブック』大修館書店.
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大学の第二外国語も和訳先渡し授業を導入して、インプット量を確保するのはどうでしょうか? 一言一句ゆるがせにせず読む授業は研究室配属後でもよい気がします。「概して教師が『適切な難易度』と思う教材が生徒にとっては『難しい』と感じ、教師が『易しい』と思う教材が生徒は『適切』と思う場合が多いことを鈴木(2000)が指摘している」(303頁)

講読の授業のシラバスに「比較的平易な文章を使って読解練習を行う」と書かれるあれですね……

今井新悟·伊藤秀明(編). 加納千恵子, 名須川典子, 大野裕, 嶋田和子, 西口光一, 八田直美 (2019). 『日本語教育がめざすもの』凡人社.
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読んだ。どの教科書であっても教科書作成者の理念と使用者の関心事が乖離しているのではないかと気になった。そして、その解消には現場の徹底的な構造変化が必要になるように思える。あと、「『まるごと』の対象は趣味や教養のために日本語を学ぶ社会人で、国際交流基金が各国で提供している日本語講座のようなコースを想定しています」(67頁)と明言してありますね。



雷音学術出版
大嶋えり子・小泉勇人・茂木謙之介(編)『遠隔でつくる人文社会学知―2020年度前期の授業実践報告―』
小泉勇人・茂木謙之介・大嶋えり子(編)『オンライン授業の地平―2020年度の実践報告―』
sites.google.com

制約の中で皆さんがどうされたか、全部ではないけどだいたい読んだ。皆様のご苦労を踏まえて自分だったらどう工夫するかしらと、当てもないのにあれこれ空想する(いや、本当に皆様にはお疲れさまでしたと申し上げたいですが)。



『働くことの哲学』ラース・スヴェンセン
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絶望するほどでもないけど、期待もするな、とまとめたら、なんだそれだけか、となってしまいますが、晩年のなだいなだが提唱した「常識哲学」みたいなことは大切なんだろうなと思います。どうしても耳目を集めるための極端な意見が目に入りやすいですから。そういう意味で、中島らもの『ビジネス・ナンセンス事典』も好きでした。



カール・マルクス (2014). 「賃労働と資本」, 森田成也(訳). 『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』光文社古典新訳文庫, 光文社.
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流れで読みました(『働くことの哲学』で触れられていたのは主に「疎外論」でしたが)。
1849年にこんなことを書いていたのはすごいですよね、ほんとうに。
1)経済が発展すればするほど労働者と資本家の格差が拡大する
2)技術革新でむしろ労働者間の競争は増大し、賃金は下落する
3)中間層は没落する
といった内容を、当時の労働者にもわかるように説明しているんですから。
「資本が急速に増大すれば、賃金は上昇するかもしれないが、資本の利潤ははるかに急速に増大する」(48頁)
「生産資本が増大すればするほど、分業と機械の採用が拡大する。分業と機械の採用が拡大すればするほど、労働者間の競争が増大し、彼らの賃金は下落する」(62頁)
「労働者階級は、社会のより上の層からも補充される。多くの小産業家や小年金生活者が落ちて来る…」(63頁)
予見で外れた部分もあって、高度な熟練労働は「ホワイト・カラー」という形で残って、むしろ被雇用者間で断絶を生んでいることでしょうか。「AIに奪われる仕事」などという得体の知れない話も、むしろ低賃金の単純労働を増大させる結末を迎えるのかもしれません。
もともと読みたくなったきっかけはと言うと、こちらのかたの感想を読んだからでした。実際に読むまで5年かかりました……。
noubrain.hateblo.jp





『オンライン授業入門  Microsoft Teams & Forms を活用した遠隔授業と学生サポート 改訂版』
t.co

雷音学術出版の2冊を読んだ勢いでこちらも読みました。初版に励まされた先生方も多いのではないでしょうか。
去年から本格的に遠隔授業を始められた方々は、授業の設計思想に大変更を求められたのでしょうか? それとも、根本はそのままに道具が変わっただけ、とお感じなのでしょうか?



『e-learning教材の作り方』油谷幸利
https://amazon.co.jp/dp/B08L7HM2PB/ref=cm_sw_r_tw_awdo_RGM5JGPFTC5RS9W29W
QK

読んだ。というか、眺めただけですが……。ものすごい本。紙で出版する機会を得なくても、本書を活用すれば外国語の問題集が作れます。/



ピエトロ・アレティーノ(著), 栗原俊秀(訳) (2019). 『コルティジャーナ[宮廷生活]』水声社.
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「あのごろつきめ、自分はいまでも二十二歳で、四月や五月に咲き乱れる花のように若々しいと思いこんでる。実際には四十を過ぎてるのに、世界中のご婦人たちから恋慕されてると信じてるんだ」(78頁)
「この土地(引用者註:ローマ)の連中は、他人の美徳や美点など気にしません。むしろ、優れた人物の体面をけがし、永遠に破滅させることしか頭にないのです」(165頁)
若いころは全然わかっていませんでしたが、アレティーノはたぶん特殊でも異端でもなくて、典型のひとつなんですよね。本作もビッビエーナ枢機卿からゴルドーニにいたる喜劇史の中にあるし、『マンドラーゴラ』や“ペトラルカ風”、言語論争の時代の中にある。



目録学の誕生――劉向が生んだ書物文化 (京大人文研東方学叢書)
zinbunkenacademy.com

先行研究がふんだんに紹介されているのがよかったです。ここからさらに読みたい文献、もっと知りたい人が増えました。個人のいとなみとしても、収集したからには分類しますよね。集めて分けるのがとても楽しいと、坂崎重盛氏が書いていたような気がします。四部にしたばかりに……のくだりをデカルトと対比してよいのかどうか分かりませんが、特に興味深い指摘でした。



野坂昭如(2005)『文壇』(文春文庫)文藝春秋
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いやあ、おもしろかった。中年のビルドゥングスロマン。野坂の小説はずいぶん昔に『エロ事師』を読んだきりでした。織田作みたいに韜晦とサービス精神がひたすら続いて、楽しい。
小説家デビュー前で焦っている野坂にとって「石原、大江、開高は別格」(63頁)だったとあって、当時はこの「3点セット」だったのか。
熊谷幸吉という本読みが「遠藤の『沈黙』より藤枝静男『空気頭』をかっていた」(190頁)
「街をぶらつき、カフェ、パブで飲むうち、日本の小説がシラジラしく思えてくる、特にロンドン…のっぺりした日本人の表情、たたずまいとまるで違う…ながめていて飽きない」(264・265頁)
この感覚は理解できます、と言ってしまうと、おこがましいですが。



プリーモ・レーヴィ(2017)『これが人間か』改訂完全版(朝日選書965)朝日新聞出版
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ラーゲルは人間を動物に変える機械だから、死の意志に屈しないために、体を洗い、靴に墨を塗らなければならない、と先達がプリモ・レーヴィに諭すくだりがありました。(45~47頁)もちろんラーゲルほどひどくはないものの、それでも「疎外」とはよく言ったもので、現代社会にあってもだんだん人間でなくなる過程で「希望を持つ習慣や、自分の理性への信頼感が失われてしまう」(222頁)ことはある。オデュッセウスの歌を持てば「大海原に身を投げ出す」こともできるのかもしれない。「外の生活は美しい、まだ美しいはずだ」(213頁)
「抑圧を容認してはいけない、抵抗すべきだ、という、今では深く根づいている考え方は、ファシスト統治下のヨーロッパには広まっていなかった。特にイタリアではそうだった」(241頁)。
「本を焼くものは…」ってハイネのことだったのか😮(252頁)
「理性以外の手段を用いて信じさせようとするものに、カリスマ的な頭領に、不信の目を向ける必要がある。他人に自分の判断や意志を委ねるのには、慎重であるべきである。予言者を本物か偽物か見分けるのは難しいから、予言者はみな疑ってかかったほうがいい」(255頁)
附録の「若い読者に答える」がいいですね。かつてなら「だめに決まっとるやろ」と問答無用で同意を得られていたようなことでも、さかしらに理窟をつけて擁護する人が増えましたよね。だめなものはだめなんですが。そして、「不義も正義だ」というテスト済みの誤算がくりかえされていく。



邱永漢(2005)『お金持ちになれる人』(ちくまプリマー新書015)筑摩書房
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なるほど、財を成すのはこういう人なのでしょう。大学入学時に「借りるより4年で売るほうがいいから」とマンション1室を買い与えられていた同学のこととか、結婚後に突然「自分は2種類の人間しか見えていなかったが、世の中には3種類いる。雇用者と非雇用者とランティエだ」と言い出した元同僚のこととかを思い出しました。



松村昌紀・編(2017)『タスク・ベースの英語指導:TBLTの理解と実践』大修館書店
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第8章「大学での英語指導の考え方と工夫」(浦野研)
から読んだ。高等教育でタスク・ベースの英語指導をどうするかに興味があったので。紹介されている実践例はピア・ラーニングでもあった。前提となるニーズ分析の困難さは、そりゃそうだな。第二外国語だとさらに困難だ。

英語教育:PPP(Presentation, Practice, Production)
日本語教育:文型積み上げ式
英語を習ったときのことを思い出すと、私のうえには積み上がらないし、全体の見通しが立たないし、かなり劣等感にさいなまれました。結局、自分で地図を買って見通しを得たようなあんばいです。完成品の検討がつかないし、スモール・ステップも得にくいですよね。別件でもう1つ気になるのは、「文法訳読法で本当に読めるようになってる?」です。脳内で翻訳しているかぎり、いつまで経っても「読めない」のではないかと思うのですが。

第1章「タスク・ベースの発想と言語教育の方法論」(松村昌紀)
「アクティブ・ラーニング」や「ピア・ラーニング」と同様、どうも“このほうが望ましいはずだ”から出発しているように見えてしまう……万人に適した方法などないし、このほうが生徒受けがよさそうなのも分かるのだけど……。

第4章「タスク・ベースの言語指導をめぐる疑問と解決への道」,第7章「中学校・高等学校での英語指導の考え方と工夫」(田村祐)
第1章より論旨が明快に感じた。読書も対話だ、みたいな気取った言い方があるけれども、それならなおのこと、英語教育はコミュニケーションのためのものであっていい。「従来の方法で英語を身につけられたのは、その方法が万能であったというよりは、英語教師となった者たちにとってはその方法との相性がよかったと考えるべきではないだろうか。規則を覚え、演繹的にその規則を適用するような学習方法は、『分析能力(analytic ability)』の高い学習者には有効である」(102・103頁)
「〈現状の指導に見られる傾向〉
●言語活動の重要性を認識している教師は多いが、それを十分に実行している教師は少ない。
●英語を使った言語活動の割合は学年を追うごとに減少傾向にあり、高等学校での言語活動は中学校に比べてかなり少ない。
●教科書に掲載されている活動をそのまま用いるのみでは、言語習得上効果があると考えられるプロセスを生徒に経験させることが困難である」(171頁)となると、謎が深まるばかりである……よく見る「学校では文法を教えない」が正しいとすると、かと言って、タスクやアクティビティもしてなさそうで、学校ではいったい何をしているのか🤔教科書の音読と章末の活動と単語テストやらネクステ・アプグレの確認テストやらで終わっているのかしら?




太宰治研究 21』

箕野聡子「『水仙』と菊池寛忠直卿行状記』」を読みました。
確かに「水仙」は木村曙的な読みをしたくもなるが、語り手を階級にとりつかれた人と見た場合にどうなるだろうか。


福地健太郎/文 園山隆輔/図解(2019)『図解でわかる!理工系のためのよい文章の書き方:論文・レポートを自力で書けるようになる方法』翔泳社
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既存の類書の知見も要領よくまとめられており、重宝します。ひところ大学受験英語長文読解の世界で情報構造とか表現リレーとかディスコース・マーカーとかさかんに言われていましたが、英文ライティング術の話を読む側に適用したものですよね。機械翻訳の隆盛ともあいまって、日本語でも簡単日語が浸透していくのでしょう。



文系大学院をめぐるトリレンマ - 玉川大学出版部
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第8章「中国の大学院進学熱」(李敏)
第9章「中国における修士修了者の労働市場での評価」(黄梅英)
を読みました。
(読んでわかったこと)修士課程が3年制の学術学位と2年制の専門職学位に分かれている。就職志望者も高学歴欲しさや都市戸籍欲しさに学術学位課程を目指しており、院生の研究能力低下が見られる。企業は社員の内部育成制度を整備しておらず、院卒に即戦力を期待している。
(感想)で、本国の大学院にあぶれた人たちが日本の大学院を目指す状況は今後もしばらく続くだろうから、日本も専門職大学院を拡充するほうがお互いのためですよね? もはや財源はないだろうから、これを実現するには研究者養成大学院を20ぐらいに集約することになりそうですが……。



栗田佳代子, 日本教育研究イノベーションセンター (2017)『インタラクティブティーチング:アクティブ・ラーニングを促す授業づくり』河合出版.
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小学校英語と同様に高等教育での学習者主体も労働問題であるように見えます。授業設計にかかる時間はたぶん講義形式の比じゃなく、専業非常勤で週に十何コマも抱えている人がこれをこなせるのか。そして、学生のほうも今の卒業に必要な単位数のままでは難しいと思う。そのために単位数を減らすと非常勤の口は減り、院生はますます減る……



塩谷奈緒子(2008)『教室文化と日本語教育:学習者と作る対話の教室と教師の役割』明石書店
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バフチングラムシから教育を考える際に「対話」が鍵になりそうな気がして、読みました。副題にある通り「学習者と作る対話の教室と教師の役割」を研究した博論が基になった本。率直に言って、実践研究はどう読んだらいいのかよくわかりません。分析・考察の妥当性が私には判断できません……早稲田日研細川派(今つくった呼称ですが……)の主導する「対話」や元早稲田日研・川口義一の言う「自己開示」に、私個人はかなり抵抗があります。そこでは全人格的な交流が要求されているように読めるのですが、私自身は他者とそこまでのかかわりを望んでいません。「社交」じゃダメなんでしょうか? 社交のための言語教育でじゅうぶんだと思うんですよね。たとえば、1日の行動を話すことから発展して、意見を述べ、説得を試み、交渉するにいたる。それだけではなくて、読書するためでも商務のためでもいいけど、「魂の交流」みたいなものを求めない、言ってみれば「うわべの」言語教育。演劇人が教育分野に参入して、「『会話』から『対話』へ」と主張していますが、その「対話」も私には承服しがたい。截然と区切る必要性が不明なのと、雑談の重要性を軽視しすぎに思えるのと、私自身はこれから再び「何を言ったか」でなく「誰が言ったか」の時代になると思っているからです。本書に話を戻すと、教師が学生に対して「だいじょうぶ?」「わかった?」を連発している点が気になりました。一般的に禁じ手とされる質問です。対話の授業でも教師の誘導やむなしとの考えから発せられているのかもしれない。しかし、本当にそれでいいのだろうか。同調圧にからめとられそうな……
 教室内に「公共空間」を生み出せるのか、生み出そうとする理由は何か、といった議論はどこかで読めるのでしょうか? 「いや、そもそも学生って対話を求めてる?」「当人が必要と思ってなくても教育はするじゃろ」みたいなこと。



王欣太蒼天航路講談社

読み放題で読んだ。学生の時分に食堂においてあったのを何冊か読んでいたのですが、こんな展開だったとは。



いしいひさいち. 2022. ROCA: 吉川ロカ ストーリーライブ. いしい商店.

このようなすばらしい漫画をリアルタイムで読めた幸せをかみしめております。『バイトくん』昔よんどころない事情で手放しちゃったけど、また買い揃えたくなりました。



鴨川明子・編(2011)『アジアを学ぶ:海外調査研究の手法』勁草書房
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阿古智子. 他者と出会い,自己を模索するエスノグラフィーの旅:中国の学校,コミュニティ,工場での経験から. 87-99.
あまり突っ込んだ説明はないけれど、初学者向けなのでこの簡潔さでよいのだろうと思います。

金野純. 史料分析とインタビュー:現代中国の歴史と記憶. 115-129.

オーラル・ヒストリーともかかわってくる話なのかな🤔ここ2、3年ここらへんの話にほんの少しだけ触れる機会がありました。そろそろ時間切れが迫っています。

グラシア, ファーラー. 山田麻貴・西山雄大訳. 質的分析を初めて学ぶあなたへ:社会現象を発見し,理解する. 31-44.

そうそう、再帰プロセスとか、妥当性と一般化とか、初学者に教えとかないとですね。都合よくつまみ食いしてるんじゃないのと言いたくなる研究、ありますよね?



京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・京都大学東南アジア研究所/編(2006)『京大式フィールドワーク入門』NTT出版
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フィールドワークは自分には絶対にむりだと若いころから思っていて、その気持ちは変わりません😂



濱田麻矢「二一世紀の祥林嫂」(図書 2022年9月号 15-19頁、岩波書店).

『図書』のありそうな本屋さんへ行ったらすべてハケていて、二軒目で見つけました。若い人でもいまだに親御さんから「你不生孩子人生是不完美的!」と言われるらしく、誰にとって完美なのかという話ではあります。「傳宗接代」は「同妻」とも関係してきます。



ダニエーレ・ルケッティ監督『靴ひものロンド』
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リトル・フィートの「ディキシー・チキン」を聞いたときやピエール・ルイスの『女と人形』を読んだときに、しゃれた作品だなと思いましたが、系統は違えどこれも洒落ていて楽しい映画。あの結び方は簡単で、しかもほどけにくいんですよね😆



樋口修吉『銀座ラプソディ』
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私た単行本で読みました。ご子息にご紹介いただいたんです。百科事典のセールスマン体験は本書に出てきます。自伝的な風俗小説でおもしろかったです。枡野浩一が吉祥寺を舞台にした教養小説を書いているけど、本書の舞台は銀座。新宿の前は銀座が若者の町だったんですよねえ。いろいろおもしろいエピソードが満載で、手元に置いてもういちど読みたいです。



小池陽慈(2022)『中学入試国語授業の実況中継』語学春秋社
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ン十年ぶりにお受験を思い出すために読みました。親御さんがお子さんに解説するのにも役立つと思います。小さいメンバーにはこうやって説明すればいいのか、と。お受験国語は自分のころと変わった部分と変わらない部分があって、前者で言うと、末期の大学入試センター試験みたいな設問があります。後者で言うと、下線部はどういうことか? と、下線部はなぜか? あと、漢字ことわざ慣用句。自分が通った塾の先生がどんなことを教えてくれたかはまるで記憶がありません。言い換え・対比・具体⇔抽象なども教えてくれたかしら🤔雑談を楽しみに聞いていたのは覚えているけれど……いい年した大人が解いてみると、さすがに選択問題はまちがえないし、記述問題でも採点ポイントが透けてみえる。中等教育の数学なんかでも、なんであの頃はこれが解けなかったんだろうと思っちゃいますが……。

1月に読んだ本

ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーザ(2014)「幼年時代の思い出」(『ランペドゥーザ全小説』)作品社
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再読。本当にうっとりするような小品。根や茎や葉などもあるのは重々承知していますが、花だけ見ていたいときもあるものです。私も仕立ての良い服を着て暮らしたい。



榎本泰子(1998)『楽人の都・上海:近代中国における西洋音楽の受容』研文出版
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ちょうど上海の演劇運動について論文を読んでいたときで、タイムリーでした。話がとびますけど、民国期のモダニズムで、きっと華南にも粤語の文芸運動などがあったんじゃないかと思いますが、そういう研究はどこで読めるのでしょうか?


小梅けいと『戦争は女の顔をしていない1』角川書店
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(これを読んだ1年後にあれが勃発してさらに胸が締め付けられる思いをすることに……)


谷垣健治監督(2020)『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』

映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』予告編

お正月らしいお気楽映画。楽しめました。


張愛玲(2017)『中国が愛を知ったころ:張愛玲短篇選』岩波書店
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沈香屑 第一炉香」はまるで映画を見ているようで、実際にかなり映画を意識して書かれていそうだなと感じました。丸谷才一が西洋には社交界があるけれども島国にはないから代わりに花柳小説が生まれた、といったことを書いていますが、張愛玲の描く社交界、みたいな研究はどこかでなされているのでしょうか?



小泉武夫(2014)『小泉武夫のチュルチュルピュルピュル九州舌の旅』石風社
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連載当事は「つばめ」をよくつかっていて、車内で読むのが楽しみでした。懐かしい。料理に対してこういう褒め方をするの、いいですよね。

12月に読んだ本

杉浦章介ほか(2005)『人文地理学:その主題と課題』慶應義塾大学出版会
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ノートをとらなかったので、あまり記憶にないのですが、人文地理学が人文科学・社会科学・自然科学を摂取しながら学際的に発展してきたのだなあと思った覚えが。ジョン・ブリンカーホフ・ジャクソンという重要そうな人物に邦訳がないのが意外でした。あと作品社が出しているデビット・ハーヴェイとか。我らが島国は全体的に山がちで、乏しい平野部のさらにわずかな部分に人が集住して、なかなか維持が大変そう……



庵功雄(2017)『一歩進んだ日本語文法の教え方1』くろしお出版
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庵功雄(2018)『一歩進んだ日本語文法の教え方2』くろしお出版
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庵先生の問題意識には完全に同意します(解決案には必ずしも賛同しませんが)。シェア1位の教材は初級の文型を教えすぎていて、大量の脱落者を生む原因になっていると思います。そして、教える側も、ややもすれば「些末な」差異や一度の教授で完全な定着を図ることに汲汲としていて、「文脈化」がなおざりになりがちなのでは?



西口光一(2020)『新次元の日本語教育の理論と企画と実践:第二言語教育学と表現活動中心のアプローチ』くろしお出版
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日本語教育理論史上の画期を成すだろうと思われる論考。学習者だって色々言いたいはずで、その「声」の獲得を支援する事業としての日本語教育。「市民性の教育」ともつながる話かもしれません。島国のコミュニカティブ・アプローチは意見や内面の表出をおろそかにしてきたし、もっと模倣が取り入れられてもいいですよね。本場のCEFRは交渉や説得も重視されていますから。



鈴木智彦(2018)『サカナとヤクザ:暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』小学館
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大陸の日式料理だと三文魚と鰻魚が定番ですが、あっちはだいじょうぶなんでしょうか?

11月に見た映画・読んだ本

白雪・監督(2018)『THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女』

映画『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』予告編

羅湖通過経験者にうってつけの映画。青春映画は苦手なんですが、これはよかったです。原題の『過春天』どおりに、春が過ぎて夏が来るお話。春の高揚感に一歩引いてしまう人だっていて、でも季節はおのずと夏になる。広東語と普通話が両方出てくる点もよいです。



實清隆(2006)『人文地理学』古今書院
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「18世紀には後者の流れを汲むドイツ観念論が展開されるが、その中で地理学に大きな影響を与えたのは、カント(1724-1804)とヘルダー(1744-1803)である。/カントは自然地理学の講義のなかで、次のように地理学の位置づけを行っている」(4頁)。
「日本の長時間・低賃金労働を背景に、繊維を軸とした軽工業製品を輸出する一方」(30頁)😢
「全事業所のうち97.9%が99人以下の中小企業である。…1000人以上の企業の一人あたり出荷額を100とすると、…中小企業では29となる。…500人以上の企業の平均賃金を100とすると、…5~29人の企業では56にすぎない。…1000人以上の企業では30人以下の企業より、平均休日日数が年間26日も多い」(32頁)
「このように日本の高度成長は、ひと握りの大企業と、不況時には加工賃の切り下げにも堪え忍んでくれる『忠実』な中小企業が安全弁として支えてきたともいえる」(33頁)

「環境地理学」の章はちょっと……。環境ホルモンダイオキシンは時代の制約とも言えますが、微生物を使ってどうこうは……教科書の参考文献にあの版元の本を挙げるのは厳しい……。とはいえ、とっかかりとしては悪くない本だと思いました。この分量からすると、教室で使用するときはたぶん講師が仔細を語るのを前提にしているのでしょう。


松原彰子『自然地理学:地球環境の過去・現在・未来』慶應義塾大学出版会
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2020年に第6版が出ています。私は初版を読みました。
「暖流系の魚が獲れるなどの恵みがもたらされた。その時期がクリスマス前後であることから、この恵みに対してスペイン語で『神の子 イエス・キリスト』を意味するエルニーニョという言葉が当てられた」(初版65頁)
「地理学的なものの見方や考え方の特徴は、空間的な把握はもちろんのこと、時間的な解析も行って、それぞれに“ズーム機能”を持たせて考察する点にあると考えています。…学生の皆さんには、ここで得た知識や、ものの見方・考え方を今後のそれぞれの専門的な勉強に生かしていただきたいと思います」(初版はじめに)


礪波護・岸本美緒・杉山正明編(2006)『中国歴史研究入門』名古屋大学出版会
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宋代のところだけ。「宋代以降の中国社会では、地方州県で実際に政務を担当する胥吏の存在が重要な意味を持った…官吏も彼らを無視しては実務の執行が容易でない状況が生まれた…官吏心得とでもいうべき官箴書なる書物が多く編纂されるようになった」(132頁)

10月に読んだ本

黒沢惟昭(2016)『グラムシの教育思想:マルクスもいいけどグラムシもいいとおもうよ』(シーエーピー出版)
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グラムシは社会変革の文脈で語られやすいけれども、言語教育でももっと注目されてほしいです(お前がしろという話ですが……)。この前の発表と合わせてみると、グラムシ→Tullio De MauroからEUの複言語主義へ流れていくあたり。100年後の人間には、トリノの工場評議会が失敗したのは経営管理できる人間がいなかったのも原因に見えるんですよね。「経営者は現場のことが分かっていない、自分たちで塾/語学学校を作るんだ」みたいな動きを教師が取ることがあるけれど、現場の経験だけでは人口ボーナスが終わった時に対処できない。

「興味深いのは(引用者注:グラムシが)『ラテン語の有効性』を『教育原理』として認めていることである。〈ラテン語言語学的研究は、生徒すなわち未来の市民に、自己が分析する現実の何物をもゆるがせにしない習慣を身につけさせ、その性格を鍛え、彼を歴史的・具体的思考へと習慣づける。〉」



斎藤泰弘(2019)『レオナルド・ダ・ヴィンチ:ミラノ宮廷のエンターテイナー』([集英社新書]集英社)
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これで氏の普及版レオナルドは完結。ピランデッロへ向かわれます。

9月に読んだ本・見た映画

ソイ・チェン監督『ドラゴン×マッハ!』


「ドラゴン×マッハ!」予告編

マックス・チャンを堪能する映画。ウー・ジンって全力少年感が強いですが、本作でも。

中嶋隆蔵(2006)『中国の文人像』(研文出版)
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文人が「理想としては、古今に通じ道理を究め具体的政治に実質的提言を行いうる文章を作成する能力を具えつつ、同時に強烈な個性と豊かな人間性とを言語表現の上に見事に発揮しうる人物として造形されてきた」というくだりは初期ルネサンスフィレンツェの書記官を想起しました。


興膳宏(2003)『古典中国からの眺め』(研文出版)
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「(吉川幸次郎)先生の演習での指導ぶりは、私(興膳宏)にとってはやはり苛烈そのものだった。担当者が少しでももたもたしだすと、にわかに先生の表情がけわしくなって、堪えかねたように特徴のある貧乏ゆすりがはじまる。この状況がなおしばらく持続しているうちに、ついに雷さまが落ちる。
『君、調べてきてあるのかネ、エ?……わからなきゃはじめから断りたまえ!』」(116頁)
「大学院生のころには、作詩文の授業があって、やはり小川(環樹)先生の指導を受けた。夜明けまで呻吟に呻吟を重ねてやっと何とかまとまった、しかしできばえはさほどでもない詩や文章(もちろん漢文)を、眠い目をこすりながら毛筆で清書していって、先生に添削を請うのである」(122頁)
「コンパといっても、百万遍周辺の料理屋で冷えたビールのグラス片手に鍋を囲むという今どきのコンパ風景とはほど遠く」(161頁)「季節料理 門」のことでしょうか?
「コンパといっても…朝から京都北郊外北山のハイキングコースを歩き回り、飯盒炊爨に恰好の場所を見つけて、キャンプさながらに怪しげな煮炊きをし、やかんで燗をつけた清酒を飯盒の蓋で飲むという野趣に富んだものだった。吉川幸次郎小川環樹といった大先生も、革靴のまま炎天下の山道を歩かれた」
「入矢(義高)先生の風呂嫌いが話題になった。…誰かがあきれて、『じゃあ、先生はどうやって身体の垢を落とされるのですか』と聞くと、先生何食わぬ顔で、『ときどきシャツの中に手を入れてこすると、垢が玉になって落ちてきます』」(162頁)
「フランスの中国学者の友人と話していると、最近は若い世代の中国学者で日本語のできる人が少なくなった、という話をよく聞く…以前は…それだけ日本の中国研究の水準が高かったことを暗示する事実でもある」(201頁)
「中国学者の間で日本語が敬遠される遠因として、日本の専門書の高価なことがある。高すぎて個人で買えないだけではない。図書購入の予算にゆとりのないフランスの大学や研究機関では、日本で出版された書物を買い控える傾向がある」(203頁)
イタリアも同じかな🤔



エウジェニオ・ガレン(1975)『イタリア・ルネサンスにおける市民生活と科学・魔術』(岩波書店)
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「それのみが人生を生きるに価いするものとさせるかの価値、即ち自由の名のもとに、フィレンツェは人々の理想の祖国となる。…それのみならず…正義のために抑圧され追放され流浪と闘いをつづける者はすべて、理念的にはフィレンツェ市民だとされるのである」(7頁)
「(レオナルド・ブルーニにとって、古代ローマ帝国時代の)ローマは、それ以外の中心地を窒息させて生きる寄生動物と考えられる」(50頁)東京……

プラトンの『国家』がよく読まれ、理想都市の実現が図られ、という流れのなかにマキャヴェッリもいるわけか。愚かにも今までわかっていませんでした。で、ジョヴァンニ・ボテーロが出てくる。

「(アンジェロ・ポリツィアーノ)は、当時進行していた精神大革命のあらゆる力を体現した人物であった。かれにとって文献学とは、言葉をその完全な意味において探求し、その固有の歴史的次元において発見することを意味する」(83頁)
「文献学は、あらゆる形の理論を人間活動の世界内に連れ戻し、あらゆる記録、あらゆる学説、あらゆる教義、あらゆる権威を、その時代のなかに置き直すような批判である。なぜならば、このウマニスタ的文献学だけが…あらゆる権威に対する最も公正な批判を開始し、それを根底まで正当化したものだから」

文献学が諸学の学だった。レオナルドもガリレオもその点でルネサンスの人です。認知哲学の人も認知科学の学際研究に参加していることについて、神経科学の人たちはどう思っているのか若い頃は不思議でしたが、ウマネジモの伝統でもあるわけですね。ガレンみたいに何でも読んで何でも語れちゃう人、そういう偉大な人文学者の本は読んでいてわくわくします。



桑木野雪司(2018)『記憶術全史:ムネモシュネの饗宴』(講談社選書メチエ)
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若いときは気がつかなかったけど、ウンベルト・エーコの提唱した〈忘却術〉って「記憶術」のパロディですよね? そういえば東アジアの記憶術って聞きませんよね。膨大な暗記が必要だったはずですが。

8月に読んだ本・見た映画

クリストファー・ノーラン監督『ダンケルク

林修先生が解説!3分で分かる映画『ダンケルク』【HD】2017年9月9日(土)公開

すごかった。映画館でしかかからない映画の魔法があると思うのですが、映画館で4Kでこれを見られてよかったです。



イ・ウォンテ監督『悪人伝』

映画『悪人伝』予告編

邦画のだめな部分を真似しちゃったかのようなところもあるのですが、マ・ドンソクがそうした欠点を補ってあまりあるのでいいです。



カルロ・ゴルドーニ(1984)『ゴルドーニ傑作喜劇集』(未來社)
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 「扇」を読んで、喜劇における勘違いの系譜が気になりました。ゴルドーニではこれがいちばんモダンで好きです。オスカー・ワイルドの喜劇につながるように思います。牧野文子訳がこのまま品切になったら、ちょっと残念。未來社で新装版を出すか、白水Uブックスないしハヤカワ演劇文庫で再刊するかしてくださないものでしょうか。
 「コーヒー店」は何度読んでも好きになれなくて、「18世紀ヴェネチアの風俗や規範意識の保存装置でしかないのでは🤔」と思っていたんですが、解釈の手がかりがほんの少し見えてきたような気がしました。



ベネデット・マルチェッロ(2002)『当世流行劇場:18世紀ヴェネツィア、絢爛たるバロック・オペラ制作のてんやわんやの舞台裏』(未來社)
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ヴィヴァルディとそのオペラ座を誹謗中傷するために書かれた本。お気楽な娯楽だったオペラを格調高くしたのはワグナーということになるのでしょうか。



バリー・ウォン、ジェイソン・チャン監督『追龍』


映画「追龍 ついりゅう」予告編(出演:ドニー・イェン 、アンディ・ラウ )


ずっと待っていた映画。アンディ兄貴の声がさすがにおじいちゃんになっていましたが、この2人の共演が見られて大満足でした。ノワールな香港、大好き