ポレンタ天国

たぶん読んだ本・見た映画の記録が中心になります

文化果つるところ

 ある地域にいたときのこと、某業界に片足をつっこもうとして結局思いとどまりました。私が断念したあと、その業界のひとびとが色めきたちました。「東京からすごい新人が来た」と。業界は斜陽産業ですが、ときおり新たに参入する人がいます。その新人は、私も少しばかり関係していたところから、その業界に鞍替えしたのでした。

 自分が同じようなことをしていたせいで、その人を公平に判断できないのかもしれませんが、私には、東京や関西などによくいる、(私とかわらない)ありふれた人間としか思えませんでした。「この程度でちやほやされるのか」というのが率直な感想です。

 諺に「田舎の学問より京の昼寝」とあるとおりのことが、ここにはあります。

 「街の寂れきった一画に若者を住まわせて芸術村をつくるのだ! アートで町おこし!」運動が、他の地域と同様に当地にもあります。そこを散策したことがあります。都会で似たようなものを見物したあとでは、あまりの落差になんだか悲しい気分になりました。子供がおままごとでつくったがらくたになぜか値札がつけられて売られていたら。しかも売主はいたって本気で、その価値を信じて疑わないとしたら、客人は適当に話を合わせて曖昧な笑みを浮かべてやりすごそうとするでしょう。そんな印象を抱きました。当人たちがいくら情熱を注いだところでどうにもならないことはあるのです。

 真の田舎はショッピング・モールなどありません。私の暮らしたそこは地方の中核都市でしたから、真の田舎とはほど遠い。しかし、この地域で人文科学の専門書や海外文学を求めようにも、どこにも売られていません。いちばんましなのは、東京で「本好き」を自任する皆さんが小ばかにするあの書店です。*1東京からお見えになるかたがたは、当地の「街の本屋さん」を絶賛なさいますが、その本屋には国書刊行会作品社みすず書房勉誠出版も、ほぼありません。平凡社ライブラリーの新刊も見ません。こんな地域にも文学部があるけれど、いったい学生さんはどうやって本をみつけるのでしょうね。いうまでもなく、仮想空間で何かを探すには、現実空間であるていど(どの程度だ?)知っておかないと無理ですから。

 いくら情報社会になったところで、目に見える文化の点で、都会と田舎の間には月に行くほど遠く長い道がそこにはばかっているなんて事知らなかったから。しばらくして私はその地域を離れました。


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*1:※そしてあの書店も改装後は海外文学の棚が五分の一くらいに縮小し、文庫本にいたっては新刊しか置かなくなりました。