内村鑑三の英語学習法
一、忍耐なれ。
コロムブスは新世界を発見するの希望を有せしが故に、二十余年の貧と孤独と苦痛を忍べり。…(言語を習得するための)四、五年の辛苦は忍びがたしと言うを得ず。
お、おう……。
二、通達を計れ。
この「通達」は古い用法で、「詳しく知っている」意です。この意味の「通」を用いた熟語に「精通」「通暁」などがありますね。
(文法事項の)一部の完全なる征平は全部の不完全なる征平にまさる。秀吉が関東を攻め入りしがごとく、コロムウェルがスコットランドを襲いしがごとく、寸地を争うてまずこれ(前置詞や冠詞など)をおのが有に帰し、しかる後に全軍を進むべきなり。
壮大な比喩です。
三、発音を怠るなかれ。
発音の不正より、せっかく学び得し言語を放棄するの危険あり。…旧事の慶應義塾式訳読法をもって英語を学びし者にして、今はほとんど全くこれを忘却せし人の多きは、まったくこれがためならざるべからず。
福沢諭吉はそのような方式を採用していたのでしょうか。
四、まず四、五百の単語を諳んぜよ。
単語カードをつくって小箱に入れ、毎日一回とりだすことを五、六週間つづければ成果を実感できるとあります。今なら似たようなアプリケーションがあることでしょう。
五、規則動詞の変活を熟誦せよ。
「変活」は現在では「活用」と言いますね。
これ(動詞)を暁得するは敵の本城を奪うことなり…余は語学研究者が意気昂然、当たるに敵なき猛盛をもって、冠詞、名詞、代名詞、形容詞、前置詞等に勝ち、旗幟を敵の外郭に立て、しかる後二、三回肉薄して本城に迫り、その堅くして抜きがたきを見るや、ついに失望して陣を旋し、全地を敵地に放棄すると目撃せり。…まず規則動詞の首を刎ねよ。不規則動詞は攻めずして降らん。
六、毎日少なくも愛篇の一句を諳んぜよ。
いわゆる「例文暗記」のすすめです。
Fooleries of the Japanese politicians are truly remarkable./日本政治家のばかばかしきことは実に非常なり。
七、すでに学び得しところを使用せよ。
作文しましょう。
大熊伯ははなはだ有為の政治家なり、されども彼はぜいたくを愛し、かつ識を誇り、ほらを吹く者なるが故に、彼は決して国民の尊敬と信用を引く能わず…Court Okuma is a very able stateman. But he loves ease and is proud and talkable, and the people do not love and respect him.
八、執拗なれ。
毎日使わないと忘れます。
林間に入りては大声に愛篇を吟ぜよ。外国人に会せば、未熟ながらも彼の国語をもって会話を試みよ。常に愛読の一書を懐にして、時々刻々閑あるごとにこれを繙け。これ…吾人の脳力を鍛え、物に接して鋭く、事に処して敏ならしむ
現在、日本国に氾濫している英語学習法と、言っていることはあまり変わらないように思います。また、昨今かまびすしい「グローバル人材の育成」と通底するかのように、愛国者は外国語を習得して欧米列強に伍すべし、といった主張が見られます。*1序文に明治三十二年とありますから、日露戦争より前に書かれた文章です。「すきま時間」を活用せよ、とこれまたよく言われることも、しっかり書かれています。
語学研究は無用の時間を利用する最好手段なり。あるいは停車場に列車の到来を待つの時、あるいは人を訪うて客室に長時間の俟待を命せらるる時、あるいは病者の枕辺にその睡眠を守る時、外字文典一冊は吾人に有益無害の楽しみを供するものなり。
※引用はすべて内村鑑三『外国語の研究』(講談社学術文庫)から。
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