ポレンタ天国

たぶん読んだ本・見た映画の記録が中心になります

11月に読んだ本

斎藤泰弘『ダ・ヴィンチ絵画の謎』(中央公論新社[中公新書])
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 著者の主張によれば、これまでのレオナルド研究は彼の自然観が一貫したものとみなす誤謬を犯しています。レオナルドは新プラトン主義やスコラ哲学などをつまみ食いしながら独自の世界観を形成していて、その考察の結果が絵画の背景に活かされている、と。そして、モナ・リザの正体にまで筆が及びます。
 私の親方がよく口にした、「真実は、単純で、素直で、つよい」を彷彿とさせる本でした。著者の考察に思わず納得しましたが、ただし、非礼を承知であえて申せば、「えっ、そこ論証なしで断言しますか?」なところが無きにしも非ずで。
 他の方の書評をいくつか拝読しましたら、難しかったとの声が散見されました。私には文体も平易で、内容も科学史的なことを含むとは言え理解しやすいと思えましたから、意外です。


中村光夫『風俗小説論』(新潮文庫)
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 現在は講談社文芸文庫なら新刊書店で購入できます。中村の『日本の近代小説』も『明治・大正・昭和』もこれの同工異曲と申しましょうか、おなじ著者ですから、当然と言えば当然ですが。最近、大橋崇行先生が囀ってらっしゃったところによると、近年の研究では、日本の近代小説は必ずしも〈私〉に拘泥していたわけではないとされているようです。そうだとしたら、我々一般人は中村光夫の呪縛にとらわれたまま、ということになりそうです。


本田弘之ほか『日本語教育学の歩き方:初学者のための研究ガイド』(大阪大学出版会)
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 共著者のなかに、ひとり、承服しがたい主張をなさっておいでのかたがいますが、それは玉に瑕でたいへん得るものがありました。日本語教育学の学会の動向から研究方法、調査の留意点まで書いてありますから、当該分野の学生のとっては、たいへん心強いのでは?


岡田寿彦『論文って、どんなもんだい:考える受験生のための論文入門』(駿台文庫)
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 残念ながら品切重版未定のようです。「論文」と銘打っていますが、一般的に「小論文」と呼ばれるものの指南書です。「『問題』は『困ったこと』じゃなくて『考える必要があること』なんだ」(24頁)は、大学院を目指す人でもわかっていない場合があります。筆者は課題文の作者に対しても手厳しいことを書いていて、その作者は私同様、じぶんで「考える」ことをしていません。考えたつもりになっているだけです。