曽野綾子と織田作之助
ともに昭和六年生まれの曾野綾子と有吉佐和子が、前者は「遠来の客たち」(昭二九)後者は「地唄」(昭三一)によってみとめられ、戦後育ちの二十代の女性らしい明るさと大胆さで、歴史と現代に取材した物語を書きだしたころから、女流作家全般の作風に一つの大きな変化が現れました。
これまでの女流作家は、主としてその体験を描くことから始め、いわゆる体当たりの告白で世間の注目をひくことを出発点とするのが通例でしたが、彼女たちは自分らの若さに悪びれず、大人の世界も大胆に想像して物語をつくりあげ、若い読者の間で成功を博したので、初めは反撥していた既成の女流作家たちも、それに倣うようになり、女性のストーリー・テラーが輩出するにいたりました。(195頁)
紫式部以来、といわなくとも、わが国の小説も女性の読者をはなれて成り立たなかったので、女性の想像力は感覚と直結している点で、男性のそれより小説的といえます。時代の要求も女性の方が観念的でないだけに、より鋭敏に感じとる場合もあるので、曾野、有吉は、いわば純粋に物語化された小説を大胆に提出することによって、多くの女性作家に道をひらいたといえます。(197頁)
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日本語の文学史上、重要な作家なんですね。いえ、それで、なんとなくわかりました。土岐雄三の『わが山本周五郎』を読むと、作家・山本周五郎と編集者との関係は王様と家来に似ていましたが、曽野綾子と編集者はどうなんでしょうか。大御所作家につく昔ながらの編集者、だとたら、やはり山本周五郎のそれみたいなもんで、おいそれと諫言できない、なんてことがあるんですかね。外からは想像するしかできませんが。老母が<<婦人の友>>を定期購読していた関係で三浦朱門の連載コラムをよく読んでいましたが、今思えば、ご夫人に劣らず自由闊達なご発言をなさるかたでした。
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太宰治の「新釈諸国噺」(『御伽草子』所収、新潮文庫)を読んでおりましたら、「遊興戒」という話が、織田作の「雪の夜」とよく似ていることに気がつきました。
「遊興戒」は『西鶴置土産』から翻案したものです。上方の三粋人が江戸に遊んでいると、かつての遊び仲間とばったり出くわし、評判の名妓を身請けしたこの仲間のすっかり落魄した暮らしに憮然とする、といった筋立てです。いっぽう、「雪の夜」はといえば、大坂の社長がなじみの女と別府で年越ししているところへ、かつて同じ女を目当てに張りあった男と鉢合わせ、零落した様を目の当たりにする、という具合で、時代と舞台が違うだけです。あとは茶碗酒が珈琲に。
視点も違うか。太宰のほうは三粋人があっけにとられるけれど、織田作のほうは落ちぶれた側に焦点があわせられています。
換骨奪胎したのだとしたら、織田作は井原西鶴に傾倒していましたから、さもありなんと思わされます。そして、うまいこと近代的な話に練り直したものだなあと。
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