ポレンタ天国

たぶん読んだ本・見た映画の記録が中心になります

7月に読んだ本・見た映画

西崎憲ほか編『たべるのがおそい 文学ムック vol.3』(書肆侃侃房)
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 黄崇凱「カピバラを盗む」を読むためでしたが、当該作は私には無理でした。現実感のない戦争と若者の閉塞感とを絡めて、みたいのはもう無理なんです。


マ・ドンソク主演『犯罪都市
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 痛快な映画。悪い人ばかり出てくるのですが、悪さに段階があって……何と言いますか、現代社会で「この人悪いよね」と観客の同意を得るにはどうしたらいいか、みたいなことを少し考えるのですが、下の映画ともども、その辺がうまいなと思いました。


『いつだってやめらめる:7人の怒れる教授たち』
『いつだってやめられる:10人の怒れる教授たち』

Smetto quando voglio - Trailer ufficiale

Smetto Quando Voglio - Masterclass (2017) di Sydney Sibilia - Trailer Ufficiale HD
 日本で「ワーキング・プア」が言われはじめたころ、韓国やイタリアでも同様の社会現象がありました。*1親元を離れて暮らせるだけの経済力がない人をbamboccione「大きい赤ちゃん」と呼ぶこともあったようです。かつてイタリアの大学は卒業がとても難しく*2、学部卒でもdottore「Dr.」の称号で読んでもらえるのですが、そういう社会でproffersore「Prof.」である彼らの誇り、また、それなのに皿洗いやガソリンスタンドといったおよそ専門と無関係の仕事に就いている屈辱や諦めは、日本のいわゆる「高学歴ワーキング・プア」の比じゃないかもしれません。
 それはさておき、続編のほうは二部構成なので、早く最終作の公開が待たれます。二作目は二部構成の前編という事情から、一作目のほうが密度の大きい作品になっているのもやむをえますまい。


南條竹則『英語とは何か』インターナショナル新書(集英社インターナショナル)
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 南條先生の英語論。いろいろ文化的な背景をからめながら英語習得論に及ぶので、そういうものに疎い人にとっては楽しく読めると思います。英語本で、その他の外国語に関心を仕向けるようにできた本は、基本的にいい本です。


河野俊之『音声教育の実践』(くろしお出版)
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 英語でもフランス語でも中国語でもベトナム語でも、最初に正しい発音、アクセントを身に着けないことにはどうにもなりません。そして、日本語も同じだと思います。言語教育に携わっている人ならともかく、一般的に処理流暢性が下がると、不快感が増すものでしょうから。コンヴィニエンス・ストアで働いているベトナム人などはうまいものだなと感心します。


靜哲人ほか『英語授業の心・技・愛:小・中・高・大で変わらないこと」(研究社)
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 靜先生と「高弟」の皆さんの本。音声教育はもちろん、もっと基本的な小技が満載でいつもながら素晴らしい本。学生が授業中に寝るのは、その授業は寝てもいいと判断しているからなんですよね。これは自分自身の学生生活を思い出してもよくわかります。だから、この授業は寝たり私語を交わしてもいい、と学生に判断させてしまったら負けなわけです。人間を二分すれば靜先生は「体育会系」に含まれると思います。それでも嫌にならないのは、背後の理論がわかりやすいからでしょうね。


細川英雄ほか編『市民性形成とことばの教育:母語第二言語・外国語を超えて』リテラシーズ叢書6(くろしお出版)
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 たとえば日本国内の日本語教育機関と言えば、第一に日本語学校になるでしょうけど、日本語学校の目的はなんでしょうか。それは、日本国内の高等教育機関に留学生を進学させることです。で、済ませていないで、もっと深いところの目的を設定しましょうよ、という本でしょうか。特に英国で発展した「シティズンシップ教育」を日本語教育に適用する試みと理論的背景がともに書かれていて私はこういう本が好きです。ただ、やはり質的研究法をそれ単独でつかうのは難しそうです。

*1:www.e-hon.ne.jp www.e-hon.ne.jp

*2:こちらの記事によれば、既定の年数で卒業できるのは1000人中18人だったとか イタリアの大学 (Commutative Weblog) そのほか、こちらのウェッブログもどうそ。 interpreter-y.blogspot.com