4月に読んだ本
亀井秀雄『明治文学史』(岩波書店)
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3月末に読みました。大学の何かの授業で教科書に指定されていましたから、書名は知っていました。大学生協の購買部でパラパラと立ち読みして、いずれ読もうと思ったはいいが、いつしか品切れ重版未定。もしかしたらジュンク堂書店那覇店にまだ在庫があるかもしれません。
先月読んだ小峯和明・編の『日本文学史』(吉川弘文館)と趣向は同じです。近代的文体の誕生や形成をたどるのでなく、いくつかのトピックを立ててその系譜を探る方法がとられています。「郊外の物語」を見てみましょう。ここでは国木田独歩の『武蔵野』が分析されています。『武蔵野』の語り手は村人とはほとんど没交渉ですが、読者に対しては饒舌に呼びかけています。本作はエッセイですから、それは掲載誌«国民之友»の読者との対話であり、読者との対話を通して近郊散策のライフ・スタイルを作り出そうとするテクストなわけです。『欺かざるの記』や『あひゞき』から引用するさいは自然との親和感のみを残し、強く印象づける操作を行っています。舞台となっている渋谷はもちろん未開の地ではなくなかなか開けた場所でした。そうした景観はすべて捨象されて、雑木林と田園ばかり描写されます。都市住民、「知的遊民」の視点から、景観というテクストが読み替えられたことになります。
奥村美菜子ほか『日本語教師のためのCEFR』(くろしお出版)
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ちょっと出版意義がよくわからなかったので、途中で読むのをやめました。CEFRは複言語・複文化主義に根差してあると、本書にもはじめのほうで書かれています。それがなぜか後半になると、can-doシラバスの話に矮小化されていて……。ヨーロッパ言語共通参照枠の理念を日本に適応するなら、アイヌ語やポルトガル語、中国語、韓国・朝鮮語なども学習しようという話になるんじゃないかと思います。
慶應義塾大学教養研究センター・監修『データ収集・分析入門:社会を効果的に読み解く技法』(慶應義塾大学出版会)
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統計分析の用語と用法を知りたかったのですが、本書でそれは前提とされていて、説明なしでした。残念。
鴻野豊子ほか『新人日本語教師のためのお助け便利帖』(翔泳社)
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なにも大判にしなくてもと思いますが、この業界の新人は中高年が多いので、老眼でも読みやすい本を目指したのでしょう。私にはあまり必要ない本でした。日ごろ目次に書いてあることで悩んでいる人はどうぞ。
唐澤一友『英語のルーツ』(春風社)
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名詞の副詞的用法(例:I go to the hospital today.のtoday)とか、所有格のアポストロフィsもあるしN1 of N2もあるしとか、ああいったことどもは文法解説書を読んでも、そういうものであるとしか書いていないことがありますが、英語史の本を読むと、由来がわかってすっきりします。三人称単数現在のsだって、フランス語やドイツ語などを勉強すれば、ああもしかして英語も昔は人称変化していたのかしらと想像しますよね。数ある類書の中から本書を選んだのは、たまたまです。装幀がしゃれていて目につきました。英語の綴字と発音の不一致はなんとかならんのかと思っていたものです。あれも歴史的な経緯があってのこと。また、インド・ヨーロッパ語族のなかで英語だけが文法を単純にしたわけでなく、デンマーク語・ノルウェー語・スウェーデン語・オランダ語などもずいぶん活用が簡素になっているのだとか。
「英語史」で検索したら伊藤サム氏のウェッブサイトが出てきました。おおまかなことはここにありますね。
英語の歴史
ジャン=ピエール・ジュネ監督『アメリ』
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十数年ぶりに見ました。九十年代の首都圏は、アニエスベーの服を着て『ポン・ヌフの恋人』の公開初日に駆けつける青年がいたそうです。そういう❝フランスかぶれ❞の時代の掉尾を飾る作品かもしれませんね。これがフランスでも売れたということは、おフランスにも「非リア」の人が多いのでしょうか。
水本光美『ジェンダーから見た日本の教科書:日本女性像の昨日・今日・明日』(大学教育出版)
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著者の問題意識に関しては同意します。もはや高齢者しか使用しない「女ことば」を教える意義は低いでしょうし、妻が専業主婦で子供が2人いる家庭を教科書に出しても日本の典型的な家庭とは言えないでしょう。
ただ、いくつか気になるところがあります。
メディアからも女ことばは消えてしまう時代は、もうすぐそこまで来ているのではないかと推測されるである。
筆者がそれを見届ける日まで元気でいられることを願うばかりだ。
のように、研究論文に価値判断を差し挟まれてもねえ。
テレビドラマや会話教材で女性の登場人物が感情的な場面になると主張度の高い女性文末詞を用いられます。
(例:A「お父さんな、会社をやめてユーチューバーになろうと思うんだ」
B「何言ってんのよ」)
これは現実の女性会話にはまったく登場しないそうです。著者は現実との乖離を理由に使うべきでないと主張します。この「スイッチ型」の女性文末詞が出現するのは、テレビドラマの脚本や会話教材の台本が「書かれたもの」だからかもしれないと私は推測するのですが、特にこの点についての検証はありませんでした。皆様ご存じのとおり、日本語の言文一致体は必ずしも話し言葉と一致しません。「~なんだぜ」と発話する男性はごく少数でしょう。
現実に即していないからこそ教科書のジェンダー観を批判しているのに、最終章で提案する登場人物例が希望的観測に満ちている点も残念です。妻の職業が薬剤師であるとか、子供は2人とか、女性上司の場面を入れろとか。
現実社会に合わせるなら、小売・サーヴィス業の場面で外国人労働者を登場させることも必要かもしれません。
このような本が不幸なのは、手に取るのはすでに問題を認識している人であって、読んだほうがいい人の視界には入らないんですよね。それでも日本社会はほんの少しずつよくなっているように感じています。
倉科岳志『イタリア・ファシズムを生きた思想家たち:クローチェと批判的継承者』(岩波書店)
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二十世紀初頭のジョリッティ時代にイタリア経済は大発展します。いっぽうで繁栄から取り残された人たちもいて、この人たちのエスタブリッシュメント層への憎悪をうまく利用したのがファシズムでした。マルクス・フロイト・ニーチェ以降、キリスト教は人々が拠って立つ基盤でなくなります。だから、国家を信じよと迫るファシズムと、自由を拠り所にしたクローチェと、クローチェは上の方しか見えていないとする継承者たち。この本、装幀がしゃれています。
金成隆一『ルポ トランプ王国:もう一つのアメリカを行く』(岩波書店)
日本も米国も変わらんなあと思いました。昔だったら、高卒でも家族を養って休暇旅行に出かけられたけれど、今は大学を出て働けど働けど楽にならざる。老人たちは製造業は海外に出て行ってサーヴィス業の時代になったのについていけず、偏見を改めることのできない。政治家は既得権益者とつるんでいる(と彼らは思っている)ので、いちど何のしがらみのない人に任せて改革してもらいたいと願う。
どうすればよかったんでしょうね。
もう製造業の時代は終わった、みんなITへ行け、などと強制できるものでもないでしょうからね。地方都市はもうだめだ、都会へ移住しろ、と強制できるものでもないでしょう。
青臭い意見ですが、教育の力が試されているような気もします。
好きな張韶涵
一時期、中華圏や韓国の音楽を聴くのが好きでした。あちらの流行歌はどうもバラードが好かれる傾向にあるようで、大陸で出会った人たちの間では日本の歌手ならKiroroの人気があります。私はロックとか軽快なポップスのほうがありがたいです。で、今回はアンジェラ・チャンの歌を勝手に順位づけします。
1.頭號甜心
張韶涵 Angela Zhang - 頭號甜心 (官方版MV)
2.C大調
張韶涵 Angela Zhang - C大調 (官方版MV)
3.愛上愛的味道
張韶涵 Angela Zhang - 愛上愛的味道 (官方版MV)
4.我戀愛了
張韶涵-我戀愛了
5.喜歡你沒道理
張韶涵 Angela Zhang - 喜歡你沒道理 (官方版MV)
五曲に限ると「香水百合」が落ちてしまう……。あと、「真愛冒險」は官方版がないので入れませんでした。
C-POP普及工作員tenrinrinさんに感謝しています。あなたがいらっしゃらなければ范曉萱&100%も范瑋琪も知ることができなかったと思います。
tenrinrin.blog94.fc2.com
3月に読んだ本
- 作者: 榎本隆司
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2010/05
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- 作者: 中村光夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1959
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高校生のときの愛読書は各教科の資料集でした。
精選日本史史料集―<学校採用品に付き別冊解答は個人の方へお出しできま
- 出版社/メーカー: 第一学習社
- 発売日: 1998/10
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- 作者: 外園豊基
- 出版社/メーカー: 第一学習社
- 発売日: 2014/01
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- 作者: 加藤道理
- 出版社/メーカー: 浜島書店
- 発売日: 1995/09
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- 作者: 第一学習社編集部
- 出版社/メーカー: 第一学習社
- 発売日: 2012
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- 出版社/メーカー: 東京法令出版
- 発売日: 2014/01
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- 作者: 西江雅之
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2012/07/26
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著者の専門であるアフリカの言語事情が多いのはうれしいことです。たとえば、ソマリ語に共通の文字表記がなかった時代、ソマリ族の祖国統一運動があって、その集会で筆者がソマリ語話者の
ノートを覗いてみると、ある人は英語で書いていて、隣の人はスワヒリ語で書いているのです。こっちの人はアラビア語で、その隣の人はアムハラ語でといったように、異なった言語を異なった文字で書いているのです。…しかし、話しているのは全員、ソマリア語なんです。
かつて、旧イタリア領ソマリランドの人はイタリア語で手紙を書きました。その手紙が旧英領ソマリランドに届いても、受け取り手はイタリア語がわかりません。ですから、郵便局のまえに翻訳屋がいて、その手紙を英語に翻訳するか、非識字者にその場で読み上げてやるかしていたそうです。
第7講の「第二言語とのつきあい方」を読んではじめて「四人称」の概要がわかりました。第二言語を学習するときには、「知っている単語(=実際に使いこなせる単語)」の輪を少しでも大きくして、「知っているつもりの単語(=見たらわかるけど使いこなせない単語)」の輪との差を少しでも縮めること、そして輪をなるべく大きくすることが大切です。当たり前ですが、近ごろ新しい言語を勉強していることもあって、改めてそうだよなと思いました。
野間正二『[改訂版]小説の読み方/論文の書き方』(昭和堂)
- 作者: 野間正二
- 出版社/メーカー: 昭和堂
- 発売日: 2015/03
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ピエール・ロチの『お菊さん』を私が知ったきっかけは星新一じゃないかと思いますが、確信がありません。芥川の「舞踏会」と合わせて随筆に書いていたような気がします。
こいつ(引用者註:ゴッダード(Goddard)の『有色帝国の隆盛』(The Rise of the Colourd Empires)という架空の本。種本はストッダード(Lothrop Stodard)の『有色人種の高まり(The Rising tide of Color)』やグラント(Madison Grant)の『偉大な人種の消滅(The Passing of the Great Race)』と言われる)は、とても優れた本だよ。一読の価値ありだ。この本が言いたいのは、気をつけないと白人はそのうちに--そのうちにすっかり隅に追いやられてしまうだろうということなんだ。この説は科学的な根拠に基づき、ちゃんと証明をされている。…注意深く見張るのは支配民族である我々の責務だ。さもなければ、どこかよその民族が支配権をさらってしまう。(258頁)
いわゆる黄禍論ですね。これが形を変えて極東に到達している感なきにしもあらず。
- 作者: 小峯和明
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 2014/10/31
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それならばとジャンル別の時系列をやめてテーマ別に再編したのが本書です。順に「古典」「メディア」「戦争」「宗教」「男女・家族」「環境」。 いくつか目についた欠点をあげると、まず、近世と近代のことにほとんど触れていません。「メディア」の人はちょっと出典の扱い方が気になります。「環境」の章は東日本大震災後のあの妙な高揚感(時代の転換点云云かんぬん。大震災はほかにもあるのになぜあれだけが時代を画するかというと、やはり東京も被害があったからなのでしょうか)が色濃く出ています。
ですが、こうした欠点を補ってあまりある魅力があります。従来の「流れ」を説明する本では零れ落ちていた作品がとりあげられているほか、ジャンル別では見えなかった、諸作品の関係が明らかにされます。言われればそうですが、元寇の軍記物は生まれませんでした。
ピーター・グゥラート『忘れ去られた王国:落日の麗江・雲南滞在記』
- 作者: ピーター・グゥラート,西本晃二
- 出版社/メーカー: スタイルノート
- 発売日: 2014/12/05
- メディア: 単行本
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忘れられた王国―一九三〇‐四〇年代の香格里拉(シャングリラ)・麗江
- 作者: ピーターグラード,由井格,Peter Goullart,佐藤維
- 出版社/メーカー: 社会評論社
- 発売日: 2011/06
- メディア: 単行本
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本書は著者が1939年から49年まで(日中戦争中!~第二次国共内戦)麗江の手工業生産合作社を監督・指導したときの滞在記です。合作社のことを書いた章もありつつ、中心となるのは著者の見聞した雲南各地の生活です。
「援蒋ルート」と言えば一般に、昆明に至るビルマ公路とレド公路を指しますが、カルカッタやボンベイで降ろされた荷物を鉄道でカリンポンに運び、そこからキャラバンがラサを経由して打箭炉(ダルツェンド、康定)へ送るルートがあったそうです。そのためラサは泡沫景気に沸き立ち、西蔵地方政府の長も個人資産の大部分を投資したとのうわさを書き留めています。それが大日本帝国の(大陸のひとびとにしてみれば10年ほども続いていたのに)唐突な降伏によって大損害をこうむったようです。著者がいたときの麗江は昆明へ物資を送る中継地点として一時の繁栄を謳歌していたのでした。
麗江はそれ以外の時期、ずっと「忘れられた部族王国の、平和で小さな首都」でした。それが今や5A級の観光地になって、というのは、忘れられていたから原風景をとどめていられた点で白川郷みたいなものなのかもしれません。
チベット族や母系社会で知られる摩娑人(モソ族、本書の書き方なら呂喜[リュウキ]族)の地域では住民の九割が性病にかかっている、とか郷城や東旺のチベット族はキャラバン強盗で生計を立てているとか、黒彝族(イ族、本書の書き方なら黒ロロ族)は白彝族を奴隷にしていたとか、何と言いますか、まだ近代がおとずれていなかったかのような話がでてきます。人民共和国が成立して以降はこうした問題が解決に向かったようですが。
著者は白系ロシア人なので、各少数民族をほめる理由にアーリア的な風貌をしていることを挙げていて……。あるいはハンセン病にかかる民族は劣等だからと言わんばかりのところや、滅んでもしかたない民族とこれからも発展するだろうと思われる民族を区別する点なども。
そうした点に限界を感じないでもないですが、訳者も指摘する通とおり、全体的にはおおむねやさしいまなざしで描いています。生活体験記としてとても興味深かかったです。
竹田茂生ほか『知的な論文・レポートのためのリサーチ入門』(くろしお出版)
- 作者: 竹田茂生・藤木清
- 出版社/メーカー: くろしお出版
- 発売日: 2013/10/10
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社会科学の世界での社会調査と実業の世界での市場調査との間に文化の違いがあって、重視するものが、参与観察と店舗観察調査、ディプス・インタヴュとグループ・インタヴュ、のように異なるそうです。
設計法を身につければ、とりあえずアンケートとインタヴュ、のような愚を犯さずにすめそうです。しなくてもよかった調査、ってけっこうありますよね。
pluit-lapidibus.hatenablog.com
(人文・社会科学向け)研究テーマの見つけ方
sociology.jugem.jp
「研究題目」でも「研究課題」でも「研究テーマ」でもなんでもいいですが、私はこれを見つけるのが非常に苦手です。日本以外の先進諸国には、就職に有利だからという理由で大学院進学率が上昇している国もあるようです。ということは、とくに研究したいわけではない大学院生が大量に生まれていることになりそうです。そうした院生さんは私同様、research questionの設定に苦労しているんじゃないかと思います。理系や心理学の場合は実験が中心になるかと思います。これから書くものはいわゆる文系、文献・社会調査が研究方法の中心になる人を対象にしています。
石黒圭『この1冊できちんと書ける!論文・レポートの基本』(日本実業出版社)は研究テーマの絞り方について、このように例示しています。
①「日本語の副詞について研究したい。」
↓ ↓ ↓
②「日本語の副詞を留学生がどのように習得するのか、研究したい。」
↓ ↓ ↓
③「日本語の程度副詞を中国人留学生がどのように習得するのか、習得の順序と文体の使い分けという観点から研究したい。」
ここからは私見ですが、①~から②に至るには、大学の教科書程度のものを読むのがいいと思います。当該分野はどのような切り口で研究されているのかを知るためです。
「〇〇学 教科書」や「〇〇学 入門書」、「〇〇学 参考書」で調べればたくさん見つかることでしょう。もっと手っ取り早く見つけたい人はミネルヴァ書房と世界思想社のウェッブ・サイトを見てみましょう。それぞれ「よくわかる〇〇」、「〇〇を学ぶ人のために」という叢書を出しています。社会科学系なら、有斐閣の「有斐閣ストゥディア」等もあります。
②から③へ進むためには、先行研究を読む必要があります。CiNiiなりGoogle Scholarなりで探してください。
- 作者: 石黒圭
- 出版社/メーカー: 日本実業出版社
- 発売日: 2012/02/23
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「Google Scholar活用法」(pdfです)
http://www.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/manual/guidance14_gs.pdf
戸田山和久『新版 論文の教室:レポートから卒論まで』(NHK出版[NHKブックス])に、先行研究の読み方があります。曰く、①メウロコ(目から鱗が落ちる)、②ハゲドウ(激しく同意)、③ナツイカ(納得いかない)、④ハゲパツ(激しく反発)の箇所に注意せよ、と。御説御尤も。とはいえ、私のような奴隷の精神構造の持ち主はメウロコばかりで、なかなかナツイカが見つけれません。ナツイカさえあればそこから研究テーマがみつかるのに……。
戸田山はテーマに対して自分から問いをぶつけることを勧めています。
本当に?(信憑性)
どういう意味?(定義)
いつ(から/まで)?(時間)
どこで?(空間)
だれ?(主体)
いかにして?(経緯)
どんなで?(様態)
どうやって?(方法)
なぜ?(因果)
他ではどうか?(比較)
これについては?(特殊化)
これだけか?(一般化)
すべてそうなのか?(限定)
どうすべきか?(当為)
そして疑問点をリゾーム図に表すと道筋が見つかるかもしれません。私はよく白紙を用意してそこに思いついたことをどんどん書き込みます。
- 作者: 戸田山和久
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/08/28
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佐々木健一『論文ゼミナール』(東京大学出版会)はなかなか容赦ないです。疑問を持てない人の信じやすさは
突き詰めると、自分の知識、自分が知っていることについて、厳密に考えていない、ということです。ひとから突っ込まれたり、質問されたりすると、とたんに口ごもってしまいます(227頁)
解決策は
友人に何かを説明してみることです。友人に何ら疑問を感じさせないような説明をするには、自分で先回りして問題になりそうなところをチェックする必要があります
から。
- 作者: 佐々木健一
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2014/08/20
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先行研究はどのくらい読むべきでしょうか。白井利明ほか『よくわかる卒論の書き方 第2版』(ミネルヴァ書房)は、卒業論文の参考文献一覧に一頁以上使うことを目安にあげています。一行四十字で三十行を一頁と仮定すると、だいたい30本以上でしょうか。おもに日本語以外の言語で書かれた文献を扱う研究分野はなかなかたいへんですね。その場合は20本ぐらいでいいかもしれません。というのも、私が属した研究室から、卒業論文も修士論文も学会誌に掲載された人がいますが、その論文の参考文献がそのぐらいだったんです。
よくわかる卒論の書き方 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
- 作者: 白井利明,高橋一郎
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2013/02
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2月に読んだ本
映画ですが、アントワーン・フークア監督『マグニフィセント・セブン』
映画『マグニフィセント・セブン』予告編
松永澄夫・編『知識・経験・啓蒙【18世紀】』(哲学の歴史6、中央公論新社)
哲学の歴史〈第6巻〉知識・経験・啓蒙―18世紀 人間の科学に向かって
- 作者: 松永澄夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/06
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厳密な意味における宗教的寛容は、たんに信教の自由ないし良心の自由を認めることではなく、…自分が否認したり嫌悪したりするような宗教的な意見や行為に対して、他人の自由を我慢し許容することを指すのである。(164頁)
宗教的寛容の擁護者も無神論者は敵視する。(同)
ジョン・ロックの章にこのようなことが書いてありました。日本列島在住者のなかには苦手な人も多そうですね。宗教に限らず、こうした寛容さをもちあわせていないと、交渉というものが難しいだろうなと思います。
五味政信ほか編『心ときめくオキテ破りの日本語教授法』(くろしお出版)
- 作者: 五味政信,石黒圭
- 出版社/メーカー: くろしお出版
- 発売日: 2016/05/31
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迫田久美子「第1章 日本語教師は接客業である:学習者を知り、理解することがすべての第一歩」はだめですね。教師に対して未知の言語で授業を体験させる、などはよい試みだと思いますが、最後の着地点が「トイレ掃除」で、どうしてこうなった……。
「第5章 笑う門には福来る:笑いは学習を促進する」を執筆した尾崎由美子氏は、最後の座談で、教科書と生教材とどちらが優れているかに関して、生教材のほうがフレッシュでおもしろいとしたうえで、「教室で使う分には、著作権をあまり気にしないで使えるので、いろいろと自由ですよね」(205頁)と語っています。著作権について誤解があるような……。
「第8章 演じないロールプレイ:もっと自由に楽しく活用してみよう」の渋谷美希氏と「終章 『楽しい日本語授業』の条件とは何か?」の五味政信氏はジェンダー、セクシュアリティやそれにまつわる偏見・差別・人権についてちょっと無頓着すぎやしませんかね。「恋愛について扱うことが難しい場合や、LGBT(性的少数者)への配慮が必要な場合もあるので、全く違った設定も考えたほうがいいでしょう」(158頁)だの「この学習者はどんな例に登場してもらっても大丈夫、どんな内容の話題を投げかけても大丈夫と教師の側が安心できる学習者がクラスには必ずいるものです」(189頁)などと留保をつければ問題ないのでしょうか。いわゆる「いじり」は受像器の中から広まった行為だと思われますが、教師が学習者に対して行うときの権力構造を意識しない日本語教師。
志村ゆかり「第3章 教師は仕掛け人である:工夫次第で学習者のモチベーションがぐんと上がる」や筒井千絵「第4章 制約のなかで戦え:与えられた条件で最大の効果を上げる教師のワザ」、石黒圭「第9章 教師は何もしなくていい:学習者が主体的に学べる環境作り」はたいへんありがたい論考でした。なるべく文脈を与えて練習させたいものです。そして、おおむね二十歳前後の、言ってみれば「いい年した」青年たちが相手なので子供じみた練習を避けたいし、「〇〇ちゃん、すごい、すごい」式の「ほめて伸ばす」もしたくないし。石黒の論考でウィリアム・ジェームズやミハイル・バフチンと出会えたこともうれしかったです。
望月紀子『ダーチャと日本の強制収容所』(未來社)
- 作者: 望月紀子
- 出版社/メーカー: 未来社
- 発売日: 2015/03/10
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曹乃謙『闇夜におまえを思ってもどうにもならない』(論創社)
闇夜におまえを思ってもどうにもならない―温家〓(ウェンジャーヤオ)村の風景
- 作者: 曹乃謙,杉本万里子
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2016/11
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www.toho-shoten.co.jp
日本ネパール協会『ネパールを知るための60章』(明石書店)
- 作者: 日本ネパール協会
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2000/09/20
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1月に読んだ本
«日本語学»2016年11月特大号(明治書院)
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年末に読みました。特集は「手書きの字形を考える」でした。版元のウェッブ・ページによると、「世界言語の中の日本語、史的変遷、言語芸術における特徴など、多彩な視点から日本語研究の最先端を広く一般に紹介。国語教育現場へも実際的・具体的な情報を提供し、研究と教育の橋渡しをする。」*1とあります。特集の記事で、はじめの三つは字体の歴史や指針の紹介としてありがたかったです。残りは随筆ないし意見文とでも呼んだほうが適切のように思われました。投稿規定を読むと、「日本語学、日本語教育学、国語教育学に関する、投稿者独自の新しい知見を含む研究紹介論文」の「採否は、本誌編集委員の審査により決定」すると書いています。特集についてはすべて依頼論文なんでしょうか。参考文献のないものは通常「論文」とみなされないような気がしますが。
明朝体は活字のために生まれた書体です。もっと手書きの書体に近いものに、教科書体があります。日本語を学習する人のための教科書も、たとえば『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)などは教科書体で書かれています。ところが、日本語学校で配る仮名の宿題用紙がしばしば明朝体で書いてある。学習者の中には、どちらが正しいのかと悩む人がいます。二千十六年二月に文化審議会国語分科会が報告したし指針*2にしたがえば、こんなものはどちらでもいいわけです。
私に限らず、三人の読者の皆様におかれましても、初等教育中は漢字の「とめ・はね・はらい」等を厳しく指導された経験をお持ちではないかと思います。この指針によると、字体が同じであれば字形の差異にこだわらなくていいようです。この報告が発表された当初はちょっとした騒ぎになっていたように記憶しています。けれども、実はこの見解は戦後に「当用漢字字体表」が発表されたときから何も変わっていないとのことです。*3なぜか教育現場に周知されないまま現在に至っている、と。いまでも、従来の方針を踏襲し、「とめ・はね・はらい」を厳しく指導して「美しい」漢字の書き方を身につけさせるべく奮闘中の国語教員・日本語教師が大勢いそうです。浸透しなかった理由はなんとなく想像がつかないでもない。日本列島社会に土着の人たちは、行政に対して水戸黄門めいた役割を求めがちですから、当用漢字/常用漢字字体表に「正しい字形」を勝手に見出したとか、こんいちのように電網が普及するまえは、当の資料にこうしてたやすく接するのが難しかったのだろうとか。いずれにせよ、明朝体はもともと印刷のためにつくられた形なのに、それが楷書の正しい形として手書きの規範とさえされつつある、などというのは、「便法がなぜか至上命令と化していく」、と一般化してみると、他の分野でもよく見かける光景です。
これを書きながらふいに思い出しました。小学校中学年時の担任教員が、「『島』の字は正方形に近く書くときれいなんだよ」と。あれも明朝体が「正しい」と思っていたせいでしょうね。
田原洋樹『ベトナム語のしくみ』(白水社)
年末に旧版を読みました。
- 作者: 田原洋樹
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2014/03/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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エドゥアルド・デ・フィリッポ『デ・プレトーレ・ヴィンチェンツォ』(イタリア会館出版部)
エドゥアルド・デ・フィリッポ戯曲集 1 デ・プレトーレ・ヴィンチェンツォ
- 作者: エドゥアルド・デ・フィリッポ,ドリアーノ・スリス,大西佳弥
- 出版社/メーカー: イタリア会館出版部
- 発売日: 2012/06
- メディア: 単行本
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附属のDVDにはこちらのテレビ放送版が収録されています。日本語字幕がうれしいじゃねえか。特典映像では制作の舞台裏を垣間見ることができます。
トーマス・ペイン『コモン・センス』(岩波文庫)
- 作者: トーマスペイン,小松春雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/03/16
- メディア: 文庫
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社会と政府とを混同してしまって両者の間にほとんど、いな全く区別をつけようとしない著述家たちがいる。…社会はわれわれの必要から生じ、政府はわれわれの悪徳から生じた。(十七頁)
つまり徳行に頼っていては世の中を治めることができないので、政府という様式が必要になったのだ。したがって政府の意図や目的もまたここにあると言える。すなわちそれは自由および安全である。(二十一頁)
聖書のこの個所は簡潔明快だ。…ここで全能の神が王政に抗議したことは事実である。…なおカトリックの国で聖書を民衆に見せないようにしているのは、僧侶の策略と並んで国王の策略も加わっていると信じるに足る理由がある。(三十三頁)
アメリカはヨーロッパのどこかの国が構ってくれなくとも、従来と同じく、いな恐らくそれ以上に繫栄すると思われるからだ。(四十四頁)
イギリスが我々を守った動機が愛情ではなくて打算であることを考えもしないで、またイギリスはわれわれのためにわれわれの敵から守ってくれたのではなく、イギリスのためにイギリスの敵からわれわれを守ったことを考えもしないで、その保護を誇りにしてきた。(四十五頁)
ヨーロッパはわれわれの貿易市場なので、どの国とも偏った関係を結ぶべきではない。(四十九頁)
地球上でアメリカほど恵まれた状態にある国はない。(七十四頁)
今こそ人間の魂にとって試練の時である。夏場だけの兵士や日の当たる時だけの愛国者は、この危機に臨んで祖国への奉仕にしり込みするだろう。しかし今この時に踏みこたえる者は、男女を問わずすべての者から愛や感謝を受けるに値するのだ。暴政は地獄と同様に、容易に征服することはできない。しかしわれわれには戦いが苦しければ苦しいほど、勝利はますます輝かしいという慰めがある。(百十七頁)
以下は、ある人の思い出話である。中国が日本と戦っていた頃、上海の古本屋で『コモン・センス』を見かけたので、ページをめくってみた。そのときとくにアンダーラインを引いた箇所が目についたので、読んでみると、それは次の一節であった。「大陸が永久に島によって統治されるというのは、いささかばかげている。自然は決して、衛星を惑星よりも大きくつくらなかった。」(本書五五ページ)あの悲痛な時代に、恐らくペインは中国の知識人の心の支えになっていたことと思われる。(174・175頁)
吉行淳之介・編『奇妙な味の小説』
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国際交流基金『文字・語彙を教える』(国際交流基金日本語教授法シリーズ3,ひつじ書房)
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*2:「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」
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三省堂から書籍が刊行されています。
常用漢字表の字体・字形に関する指針: 文化審議会国語分科会報告(平成28年2月29日)
12月に読んだ本
必要に迫られて、精神分析批評をちょっと齧ることにしました。若いころにも、川本晧嗣ほか編『文学の方法』(東京大学出版会)で批評の実践例を読んだことがあります。「なにいってだこいつ」以外の感想が浮かびませんでした。このたびは大浦康介・編『文学をいかに語るか:方法論とトポス』(新曜社)と、丹治愛『批評理論』(講談社選書メチエ)を繙きました。この三作で精神批評理論を解説しているのは、いづれも山田広昭です。『文学を~』のほうはやはり何が何やらわかりませんでした。『批評理論』のほうは、谷崎潤一郎の『夢の浮橋』をめぐってスリリングな読解が展開されます。『夢の浮橋』を読みたくなりました。とはいえ、これは精神分析批評よりナラトロジーの読みとしておもしろかった。最後のとってつけたような精神分析的な読みは余計でしょう。
メモを取らなかったので、うろ覚えで書きますと、『文学の方法』では、「ムッシュー・テストと劇場で」で、劇場の柱がファロスの象徴としてだかなんだか、そんな分析だったように思います。
医学の分野で精神分析はほとんど顧みられないようです。文学研究でいまだにありがたがっている人も少ないのかもしれない。教科書風の本の解説者が同じ人なのもまたそうした事情ゆえでしょうか。イタロ・ズヴェーヴォの『ゼーノ氏の意識』みたく、作品自体が精神分析の影響下にあるなら、それなりに意義深いものになりそうです。
- 作者: 川本皓嗣,小林康夫
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- 作者: 大浦康介
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ダン・レメニイ『社会科学系大学院生のための研究の進め方:修士・博士論文を書くまえに』(同文館出版)
社会科学系大学院生のための研究の進め方―修士・博士論文を書くまえに
- 作者: ダンレメニイ,Dan Remenyi,小樽商科大学ビジネス創造センター
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近松の『心中宵庚申』は従来、作劇法に難があるとされてきました。ところが、貨幣経済社会が成立したことを背景にすえてみると、見事な筋運びの作品に変貌するんです。なんとアクロバティックな。著者は触れていませんけど、『心中天網島』にもこの視点を掛け合わせてみると、どうなるのでしょうね。
山内博之『OPIの考え方に基づいた日本語教授法』(ひつじ書房)
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インフォメーション・ギャップをとりいれたり場面依存型のシラバスを導入したりすることに異存はないけれど、それをどうやって体系化するかが肝腎でしょうに、そこがするりと抜け落ちているのも、ね。その点は『まるごと 日本のことばと文化』が具現化していると言えなくないかもしれない。
廣末保『心中天の網島』(岩波書店)
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台本を1行1行丹念に読んでいく著者の力量に驚嘆しないわけにはまいりませんが、けっきょくこの戯曲が現代人たるわたくしには難解であることにはかわりませんでした。初演以来再演されなかったのを半世紀近くたって近松半二が改作、さらに歌舞伎になって命脈を保っているわけですから、当時の人にとっても理解がむずかしかったのかもわかりません。そうやすやすと心中させない門左衛門。貨幣経済社会の到来を横軸に解釈できないものかとも、持ち前の悪い頭で考えてみましたが、むりでした。
亀井秀雄「『坊っちやん』:『おれ』の位置・『おれ』への欲望」(『主体と文体の歴史』所収、ひつじ書房)
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中村捷・編『人文科学ハンドブック:スキルと方法』(東北大学出版会)
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野家啓一が、人文科学も役に立つとか、人文科学は心を鍛えるとか、書いていて、へえこんな凡庸なことをいう人だったのかと……。沼崎一郎は、とにもかくにも誰でもいいから大学の教員にどんどん会いに行け、と書いていて、これはいいですね。指導教員にすら会わずにドツボにはまっていく大学生がときおりいます。それが私だ。
国際交流基金『初級を教える』(国際交流基金日本語教授法シリーズ第9巻、ひつじ書房)
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筒井清忠・編『新昭和史論:どうして戦争をしたのか』(ウェッジ)
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昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)
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戦前の二大政党制はごく短期間に終わりました。両党とも慢性不況を克服できず、野党は与党のスキャンダルを攻撃するばかりで、政党政治に対する不信感が高まります。同時に、明治以来の国是であった親英米志向の外交方針が特権的な旧支配体制を維持するものとみなされ、攻撃される対象になります。そして、満州事変という事実上のクーデターが起こると、天皇・政党・軍部のバランスが崩れて、集権的な意思決定能力にひびが入りました。この状況で総理大臣に就任したのが重要な局面でことごとく悪手を打つ男・近衛文麿。外交安全保障を国内世論受けの印象論でしか理解していませんでした。また、当時の新聞は中間層と草の根階層が支持基盤でした。煽情主義とナショナリズムに影響されやすいこの階層に訴えるために、政府攻撃と愛国心を主題に据えて、対外強硬の姿勢をとります。
今世紀の世界でも見たことがあるような気のする光景ですね。
山崎正和の担当分「第5章 インテリと知識社会の変貌:アカデミズム・ジャーナリズム・ポピュリズム」は編者が大幅に改稿したものです。原テクストは「『インテリ』の盛衰:昭和の知的社会」だそうで、これ、たしか大学入試対策の現代文で問題を解いたはず。岩波文庫発刊の辞から亜インテリ(知的中間層)が学界に対抗心を燃やしていたことを明らかにするくだりはまだ覚えています。若いころの自分は現代文の評論問題や英語の長文問題に知的好奇心を刺激されていたものです。
勝海舟は大陸の大きさをきちんと認識した発言を『氷川清話』に残しています。どうもこのあたりを理解せずに、かつ事実と願望を区別できない人が昔も今もいますよね。