6月に読んだ本
安原和也(2017)『ことばの認知プロセス:教養としての認知言語学入門』(三修社)
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とっかかりや話の種にちょうどよい本でした。レポートを書く水準に持っていくためには、参考文献をたどっていくのがよさそうです。
ウンベルト・エーコ(2011)『開かれた作品』(青土社)
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翻訳がちょっと……。この概念自体はなるほどなあ、と思って、その後も活用しています。「開かれていない作品」もけっこうあるんですよね。で、えてして人気が出る。
5月に読んだ本
北原敦・編(2008)『イタリア史』(新版世界各国史15, 山川出版社)
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イタリア史は日本語で読める手頃な通史の乏しい時代が続きました。山川のこれ以降、他の版元がいくつか出していってくれています。どこまで最新の研究動向が反映されているのか門外漢には分かりませんが、詳しさで言えば、まずはこれでしょうか。
小谷瑛輔(2017)『小説とは何か?:芥川龍之介を読む』(ひつじ研究叢書文学編10, ひつじ書房)
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学部生が文学研究とはどういうものか知りたいときにとても助かる本だと思います。実証的に読んでいく感覚がつかめることでしょう。日本文学では従前の解釈をひっくり返すことも重要なんですね。
4月に読んだ本・見た映画
ユエン・ウーピン監督『イップ・マン外伝 マスターZ』
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私はこれがいちばん好きです。香港映画っぽさ(と、私が勝手に思っているもの)がいちばん残っているからです。それでいて、穿ち読みもしたければできるようになっています。
『序章』と『イップ・マン』はそれでも粘っていた部分が『継承』は完全に押しきられてしまったように思います。
京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター編(2017)『目録学に親しむ:漢籍を知る手引き』(京大人文研漢籍セミナー6, 研文出版)
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分類することがここまですごいことだったとは! いや、たしかに分類するためには見識が問われるわけですが、そこが見えなくなってしまっていたというか。
ウンベルト・エーコ(2018)『イタリア語で読むウンベルト・エーコの「いいなづけ」』(NHK出版)
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『婚約者』本編が新刊書店で買えなくなっているいま(その後、2020年に河出文庫版が復刊されたのは勿怪の幸いでした)、貴重な本です。初級の文法書を終えたら、読解練習に使いましょう。イタリア人と話すときに、盛り上がると思います。
3月に読んだ本・見た映画
上田慎一郎・監督(2018)『カメラを止めるな!』
あ、こう来たか! となる映画でした。洋食のフルコースに払う余裕がなくても、それならネパール・カレーや中国語が飛び交う料理店でもおいしいのはたくさんあるよね、とでも言いましょうか。
黒田龍之助(2018)『ロシア語だけの青春』(現代書館)
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私も学部生のとき語学学校に通うべきだったのに、若いときは今よりもっと愚かだったから、そういうお金のつかい方を知りませんでした。発音と例文の力を再認識しました。感動的な思い出話が言語学や外国語学習法の話でもあるのは著者のいつもの超絶技巧でありましょう。
大阪大学歴史教育研究会(2014)『市民のための世界史』(大阪大学出版会)
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高校生の時の知識で止まっていてはダメですよね。
上野千鶴子(2018)『情報生産者になる』([ちくま新書]筑摩書房)
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この著者らしく大ザッパなところもあるのですが、研究を考える学生にもその他の人にも役立つ情報がたくさんありました。「うえの式質的分析法」はPCでの分析を要しないので、救われる学生さんが多いでしょう。
この手の論文/レポートの書き方・プレゼン法等をまとめて教える本はたくさんあるけど、もっと射程が長いと言うか、意図や目標の解説が丁寧で、善き教師だなと思いました。
2月に読んだ本と見た映画
坂本一敏(2008)『誰も知らない中国拉麺之路(ラーメンロード):日本ラーメンの源流を探る』(小学館[小学館101新書])
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学術書ではないので「ん?」となる箇所もあるのですが、各所の麺について知れるのはよかったです。莜麺という日本の盛り蕎麦風の麺や蘇州麺という醤油ラーメンそっくりの麺などは見ていて楽しい。
シドニー・シビリア監督『いつだってやめられる:闘う名誉教授たち』
『いつだってやめられる 闘う名誉教授たち』予告編
最初とつながって、しっかり完結しました。第一作を越えるのは難しいと思いますが、かなりがんばった印象です。イタリア語の歌うような響きが私はとても好きで、そこも味わってほしい作品です。
1月に読んだ本
大瀧雅之『基礎からまなぶ経済学・入門』(有斐閣)
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著者の誠実さが伝わる本でした。「どちらが大切か?」と迫る二分法に騙されちゃいけないんですよね。たいていの場合、「どちらも大切に決まってるだろ!」で済む話なので。
また、企業家と労働者の間に信頼がない社会では(低賃金, 手抜きをする)でナッシュ均衡が起こるって、そりゃそうですよね……。
水野一晴『世界がわかる地理学入門:気候・地形・動植物と人間生活』(筑摩書房[ちくま新書])
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自然地理と人文地理両方のさわりがわかってお得な本です。地理学の研究方法について紹介することは主目的でないので、それについては別の本を読む必要があります。
「ちなみに、バカ・ピグミーは、近隣農耕民をゴリラの化身とみなしているという(大石2016)。人間としての農耕民は仮のもので、死ぬと本来のゴリラの姿に戻ると考えているのだ。バカ・ピグミーは、身振りや振る舞い、興奮したときのうるささ、危険性から農耕民とゴリラの類似性を指摘する」
鈴木智彦『ヤクザと原発:福島第一潜入記』(文藝春秋[文春文庫])
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当時の雰囲気を思い出して、なつかしくなりました。こういう本を読んでいると、あれもこれも勝手に「シノギの匂い」を嗅いでしまうようになりますね。
筒井淳也・前田泰樹『社会学入門:社会とのかかわり方』(有斐閣)
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生老病死といったトピックに対して、量的調査と質的調査はそれぞれどんなテーマを立ててどのようにアプローチするかを解説した本です。研究テーマが決まらない学生にとってはかなり助かるのではないでしょうか。理論社会学についてはまた別の本で。
新保敦子・阿古智子『勃興する「民」』(超大国・中国のゆくえ5、東京大学出版会)
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博士号持ちの大学教員が書いたものなのに、事実と意見の区別が曖昧です( -᷅_-᷄ )
大陸と半島は蜜月関係だと書いてありますが、この翌年にミサイル配備決定がありました。
遊牧民の生活は都市化していると書いた次のページで「遊牧民として自然に依拠する生活をしてきた文化的背景があるためか、」遊牧民の学童は「鷹揚で競争心がなく、試験のために全力を尽くす原動力が不足しているように思われる」などと……。
引用元がイザ!とレコチャイで、前者は定量データに基づかず数人のインタビューをまとめたもの、後者は大陸メディアからの翻案(つまり孫引き)なんですが、研究書として没問題なんでしょうか?
留守児童は親子間の愛着が形成されないから人間関係の問題を起こしやすいなどとも書いてあります。ベビーシッターとか全寮制の学校とかはいろいろな国にありますが、大問題を引き起こしているかどうかは寡聞にして知りません。
新保氏部分の最後は「…と感じるのは、筆者だけであろうか。」ときたもんだ。
阿古氏部分も陰謀論者の記事を主張の根拠にしています。
公共圏が形成されない、インターネット空間内の政治的言論がともすれば過激になる、市民の分断、組織的なインターネット情宣などは島国にも見られるし、さほど特殊なことではないと思います。
「事実は価値判断から中立ではありえない」ことに無自覚な人たちが書いた本という印象でした。たしかに某は通常「普遍的価値」とされるものだけど、そこからどれだけ足りないかを断罪するのはちょっと違うのではないか。そして研究者が無邪気にその価値判断を物差しにしていいでしょうか。
12月に読んだ本
グイド・ザッカニーニ『中世イタリアの大学生活』(平凡社)
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語学教師が当時から薄給だったとわかりました……。
溝上慎一(2018)『アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性』(「学びと成長の講話シリーズ」第1巻、東信堂)
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本書を読んで、アクティブラーニングと私のビリーフは全く相容れないことがわかりました。私じしんは民主主義社会を守るための市民性教育という理念を守りたいと思っていいます。アクティブラーニングは教育を「国家、そして個人がこの先生きのこるには」に矮小化しているようにも見えます。
知識経済の社会が到来するとして、その社会に対応するために教育を変えなければならない、とここまでならまだしも、それにはアクティブラーニングが必要だと言い切るのは論理の飛躍でしょう。アクティブラーニングをしなくてどうやって大転換の時代を乗り切るつもりだ、と煽るのは詐欺師の手口みたいです。
学校と軍隊の類似はよく言われることだけど、生徒に規律や「身体性」を身につけさせて「型」の徹底にこだわるあたりは「アクティブラーニング道」とでも言えそうで、とても日本的だと思いました。
清水克行(2018)『戦国大名と分国法』(岩波新書新赤版1729、岩波書店)
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考えてみたら当たり前なんですが、法があるから秩序が安定するというより、ぐだぐだだから法を定めざるをえないんですよね。また、歴史学は史料の解釈を改めていくのが主要な営みであるらしい点が文学と似ているなあとか、そんな辺りがおもしろかったです。
佐藤信弥(2018)『中国古代史研究の最前線』(星海社新書123、星海社)
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以前読んだこの版元の新書は若い人向けの組版で辛かったのだけど、今回は読みやすかったです。それでも所々太字になっているのは古本に線が引いてあったときのような気持ちになりますが……。
専門家にとって何が研究課題なのかが分かる本はとても助かります。
ジェイコブ・ソール(2018)『帳簿の世界史』(文春文庫、文藝春秋)
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簿記の勉強をしたくなる本です。国家厳守も「ふつうの人々」なんですよね。プライマリー・バランスのような見たくもない現実は見たくなかったわけで。