ふつうの人生
仮想空間で見つけた方の話です。その方は、昭和の日本ないし現代東アジア諸国の会社員であれば、定年退職していてもおかしくない年齢のときに、時間給労働のかけもちで生計を立てておられ、しかも、お子さんを大学へ進学させておいででした。なにやらどうも本業をお持ちのご様子ですが、それ以外にホテルの皿洗いや便利店の会計係、非常勤講師などを五つぐらい兼業していらっしゃって、びっくりするやら感心するやらでした。
ウェッブログがあまり更新されなかったこともあって、そのかたのことはしばらく忘れていました。先日、ひさしぶりに探してみると、まだご健在でした。いまは常勤職です。で、勤め先を明かしておられたために、その組織を調べてみると、どうも労働法を遵守する気のなさそうな……。いわゆる「ブラック企業」のウェッブサイトに共通する特徴をひととおり備えているあたりは苦笑するほどでした。
当のご本人は現状にきわめて満足していると言わんばかりの書きぶりなんですよ。自分の原点に戻ることができ、そして職務が増えて毎日とても忙しい(が、それがいい、とお思いになる人はブラック企業の従業員によくいます)。ですが、月の残業が100時間を超えるような職場はとてもじゃないが私には勤まりません。この職場に就業なさる前の日記ですと、ご自分は引く手あまたであるかのように読めたのですが、なんでわざわざ好きこのんでそんなところに身を落ち着けてしまわれたのか。
思い当たる節がないわけではないのです。なんせ私は品性下劣な人間ですから、あくまで下種の勘繰りにすぎませんけど、「引く手あまた」というのも所詮はまわりの友人知人が社交辞令を述べただけだったのではないか、と。あるいはもっと下衆な妄想をすれば、この方ご自身が積極的にこの錯覚に引っかかっていかれたのではないか。
過去の記事を拝読するに、自分の友人はこんなに活躍しているとか、自分のかかわった場はこれほどまでに高い評価を得ているとかの記述が妙に多いのです。よくいますよね。日本人選手の金メダル、日本人科学者のノーベル賞、日本企業の技術革新等々を「同じ日本人として誇りに思う」人や、「友達の友達がアルカイダ」の人。
満たされない人生を送るのはつらいものです。どうやって折り合いをつけるかは人それぞれ。決して他人事とは思えません。
- 作者: 夏目漱石
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